知財創造教育

このコンテンツは著作権を含む知的財産について普及・啓発のためご案内するものです。
1.知財創造教育
2.著作権
3.著作権と日本版バイ・ドール法

1.知財創造教育

知財創造教育とは
 「知財創造教育」とは、発達段階に応じて、新たな発見や思考の源泉となる創造性を育むとともに、知的財産の保護・活用の重要性に対する理解の増進と態度形成を図り、もって知的財産の創造に始まり、保護・活用に至る知的創造サイクルの好循環を生み出すための人材を育む教育をいう。
(2017(平成29)年1月27日、政府知財創造教育推進コンソーシアム推進委員会承認)
知財創造教育推進コンソーシアム設置の根拠(1)
「日本再興戦略2016-第4次産業革命に向けて-」(2016(平成28)年6月2日、閣議決定)

第2 具体的施策
Ⅲ イノベーション・ベンチャー創出力の強化、チャレンジ精神にあふれる人材の創出等
1.イノベーション・ベンチャー創出力の強化
ⅲ)第4次産業革命等を勝ち抜く知財・標準化戦略の推進
 ③知財・標準化人材の育成
  将来の知財人材等の量・質的な拡大を図るため、創造性の涵養及び知的財産の保護・活用とその意義の理解に向けた教育の推進が必要である。このため、次期学習指導要領の方向性に沿って、知的財産に関する資質・能力が教育課程総体として育まれるよう各学校における教科横断的なカリキュラム・マネジメントの実現を図るとともに、教育現場における学習を地域・社会と協働して行う体制の構築を支援するため、関係省庁や関係団体等から構成される「知財教育推進コンソーシアム(仮称)」を今年度中に整備する。また、知財教育に資する教材(産業財産権、不正競争防止法、著作権法、標準化等)の作成を進める。
知財創造教育推進コンソーシアム設置の根拠(2)
「知的財産推進計画2016」(2016(平成28)年5月9日、知的財産戦略本部(本部長:内閣総理大臣)決定)

第2.知財意識・知財活動の普及・浸透
1.知財教育・知財人材育成の充実
<<地域・社会と協働した学習支援体制の構築>>
(知財教育推進コンソーシアム(仮称)の構築)
・地域・社会との協働のための学習支援体制の構築を支援するため、関係府省、関係団体、教育現場、企業等から構成される「知財教育推進コンソーシアム(仮称)」を2016年度に構築する。(短期・中期)(内閣府、文部科学省、関係府省)
・知財教育推進コンソーシアム(仮称)を活用し、各教科等で活用可能な知的財産に関する話題も含め、教育現場に提供できる知財教育に関連するコンテンツを幅広く集約し、広く周知する。(短期・中期)(内閣府、経済産業省、文部科学省)

(地域コンソーシアム(仮称)の形成)
・教育現場における創造性の涵養とともに、知的財産の保護・活用とその意義の理解に関する学習を支援するため、産学官の関係団体等の参画を得て、地域社会と一体となった知財教育を展開するための「地域コンソーシアム(仮称)」の構築を促進する。(短期・中期)(内閣府、文部科学省、関係府省)

<<知財教育・知財啓発を進めるための基盤整備>>
(教材等の充実)
・産業財産権のみならず、不正競争防止法、著作権法、標準化等に関する最新の話題も考慮しつつ、知財教育に資する教材等の在り方を検討した上で、知財教育向けの教材を開発・普及する。(短期・中期)(経済産業省、文部科学省)
・知財教育に関わる教員を支援するため、開発された教材の各地域で実施される教員向け研修等での活用を促進する。(短期・中期)(文部科学省)
知的財産に含まれる主なもの
技術・発明・考案(特許権、実用新案権、営業秘密(不正競争防止法))
意匠(デザイン)(意匠権)
半導体集積回路の配置(回路配置利用権)
商標(マーク)(商標権、商号)
商品表示・商品形態(不正競争防止法)
文化・芸術(著作権)
産品の名称(GI)(地理的表示)
植物の新品種(育成者権)
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2.著作権

著作権と科学技術の信頼性
 2015(平成27)年度版科学技術白書は、「公正な研究活動の推進に向けた取組」という特集を設けています(p.9-22)。
 ここでは、STAP論文問題、ノバルティスファーマ株式会社における高血圧症治療薬の臨床研究、東京大学分子細胞生物学研究所の事案が取扱われています。 特にSTAP論文問題については2ページ超にわたり取り上げられています。
 いずれの事案も、研究過程や研究成果において得られたデータや結果のねつ造、改ざん、他者の研究成果などの盗用といったことが行われていました。
 このようなことが、研究の過程だけではなく、普段の学習の過程においても行われているとするならば、我が国の研究や、あるいは政策の発表すら、世界的にその信頼性を著しく損ねてしまうことになります。

 現在、小・中学校で使用されている検定済教科書で、著作物の問題をどのように扱っているか、次に2つの例を紹介します。

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「個人の名前やれんらく先などの情報をのせていないか」「取引先の人や、ニュースに登場する人の許可を得ているか」「ほかの人に著作権があるものを、無断で使っていないか」「受信する人が混乱しないように、情報の出所を明らかにしているか」(「小学社会5下」教育出版, 2007(平成19)年6月, p.18)
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「人間の知的な創造活動や発明から生み出された成果は、知的財産権という権利で守られています。知的財産権には、大きく分けて著作物にかかわる著作権と、発明などにかかわる産業財産権という2つの権利があります」「著作権 文章やイラスト、写真などの著作物に対して、その著作権者に認められる権利です。もちろん、自分が作り出した著作物にも著作権があります。著作権のあるものを著作権者以外が無断で利用することは、法律で厳しく制限されています。(以下略)」(「新しい技術・家庭 技術分野」東京書籍, 2012(平成24)年2月, p.201)
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最近のものでさえ、このくらいの扱いであり、学校現場においては、おそらく読み飛ばされているのではという危惧ももっております。
(高橋 輝)
著作権教育の定義
 著作権教育についての明確な定義はありませんが、上野耕史文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官は、次のように示しています(著作権法百年記念基金事業ワーキンググループ『著作権法百年記念基金事業報告書』著作権情報センター,2015.)。
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 著作権教育は、「著作権及び著作隣接権の適切な保護を図り、もって文化の発展に寄与できる力の育成を目指した教育」である。
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 この定義を、第2期教育振興基本計画(2013(平成25)年4月25日,中央教育審議会答申)が示す新学習指導要領の目指す「生きる力」の3つの要素に分けて著作権法制度の目指すものを検討すると次のようになります(新学習指導要領は小学校:平成23年度、中学校:平成24年度から実施。)。

 著作権教育は、「①著作権等の考え方に関する基礎的な知識・技能」の習得・育成を図る教育
 著作権教育は、「②著作権等の考え方を活用して課題を解決する能力(思考力・判断力・表現力)」の習得・育成を図る教育
 著作権教育は、「③著作権等の考え方を尊重し、文化の発展に寄与しようとする態度」の習得・育成を図る教育

 『科学の健全な発展のために―誠実な科学者の心得―』(日本学術振興会編,丸善出版,2015)では、①の関連では引用の方法、出展の明示の方法などが、②に当てはまるものとしては学生の成果を搾取しようとすることの回避などが、③では同様にねつ造、改ざん、盗用などが社会に対して誠実でないことなどが取り上げられています。このように、著作権教育が目指すものは、児童生徒から大人まですべてに当てはまるものといえます。
(高橋 輝)
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3.著作権と日本版バイ・ドール法

バイ・ドールとは
まず、バイ・ドールについて経済産業省作成資料を引用してご紹介します。
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(1) 米国バイ・ドール法
○ 米国では、1970年代後半の米国経済の国際競争力低下を背景として、1980 年に、民主党バーチ・バイ上院議員と共和党ロバート・ドール上院議員を中心とした超党派議員が、政府資金による研究開発から生じた発明について、その事業化の促進を図るため、政府資金による研究開発から生じた特許権等を民間企業・大学等 に帰属させることを骨子としたバイ・ドール法(改正特許法)を成立させた。
○ これにより、大学における特許取得とその技術移転や、企業の技術開発が加速され 新たなベンチャー企業が生まれるなど、米国産業が競争力を取り戻すこととなったと言われている。

(2) 我が国での法制化
○ 一方、我が国では、従来、政府委託資金による研究開発から派生した特許権等の帰属については、国が所有することになっていた。
○ 平成11年、我が国の産業競争力強化が課題になる中、総理主催の産業競争力会議 において、民間側から制度改善についての提言が相次いだ。このため、同年6月に決定した産業競争力強化対策において、米国バイ・ドール法を参考にし、措置を講じる旨決定された。
○ これを受け、日本版バイ・ドールを含む産業活力再生特別措置法が、7月21日閣議決定され、国会において審議・可決。同法は8月13日に公布され、日本バイ・ドールについては、同年10月1日から施行された。
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(以上、経済産業省作成資料より引用)
日本版バイ・ドール規定の対象となる権利における著作権
日本版バイ・ドール規定の対象となる権利における著作権について、花輪洋行氏の解説を紹介します。
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日本版バイ・ドール規定の対象となる権利について、旧産業活力再生特別措置法施行令(平成11年政令第258号)では、[1]特許権、[2]特許を受ける権利、[3]実用新案権、[4]実用新案登録を受ける権利、[5]意匠権、[6]意匠登録を受ける権利、[7]プログラムの著作物の著作権、[8]データベースの著作物の著作権、[9]回路配置利用権、[10]回路配置利用権の設定の登録を受ける権利および[11]育成者権の11の権利が規定されていた。法律改正により産技法に移管されたため、これらの権利も産業技術力強化法施行令で規定されることになったが、その際、[7]と[8]の著作権に係る部分については「著作権」としてまとめられることになり、全ての著作物の著作権が対象となった。この権利の一部変更の理由は、知的財産の事業化を図る上で必要な設計図やマニュアルなども著作権の発生する著作物であるため、著作物としてデータベースとプログラムに限定されている旧規定を改正し、限定を解除する必要があったからである。なお、同政令の改正を受けて経済産業省では契約を見直すこととし、平成20年度契約からは委託研究成果として受託者から納入される成果報告書についても、あらかじめ国の利用を許諾させた上でその著作権を受託者側に帰属させ、広く活用を図ることとしている。
花輪洋行「日本版バイ・ドール制度の変更について」(産学官連携ジャーナル,2007年12月号Web版)
https://sangakukan.jp/journal/journal_contents/2007/12/articles/0712-07/0712-07_article.html
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以下は該当する法令の条文となります。
産業活力再生特別措置法
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/h145131.htm
衆議院トップページ >立法情報 >制定法律情報 >第145回国会制定法律の一覧 >産業活力再生特別措置法
法律第百三十一号(平一一・八・一三)

  ◎産業活力再生特別措置法
(国の委託に係る研究の成果に係る特許権等の取扱い)
第三十条 国は、技術に関する研究活動を活性化し、及びその成果を事業活動において効率的に活用することを促進するため、その委託に係る技術に関する研究の成果(以下この条において「特定研究成果」という。)に係る特許権その他の政令で定める権利(以下この条において「特許権等」という。)について、次の各号のいずれにも該当する場合には、その特許権等を受託者から譲り受けないことができる。
一 特定研究成果が得られた場合には、遅滞なく、国にその旨を報告することを受託者が約すること。
二 国が公共の利益のために特に必要があるとしてその理由を明らかにして求める場合には、無償で当該特許権等を利用する権利を国に許諾することを受託者が約すること。
三 当該特許権等を相当期間活用していないと認められ、かつ、当該特許権等を相当期間活用していないことについて正当な理由が認められない場合において、国が当該特許権等の活用を促進するために特に必要があるとしてその理由を明らかにして求めるときは、当該特許権等を利用する権利を第三者に許諾することを受託者が約すること。
2 前項の規定は、国が資金を提供して他の法人に技術に関する研究を行わせ、かつ、当該法人がその研究の全部又は一部を委託する場合における当該法人と当該研究の受託者との関係に準用する。
3 前項の法人は、同項において準用する第一項第二号又は第三号の許諾を求めようとするときは、国の要請に応じて行うものとする。
産業技術力強化法
衆議院トップページ >立法情報 >制定法律情報 >第147回国会制定法律の一覧 >産業技術力強化法
法律第四十四号(平一二・四・一九)

  ◎産業技術力強化法

最終改正:平成二六年五月一四日法律第三六号
(国が委託した研究及び開発の成果等に係る特許権等の取扱い)
第十九条  国は、技術に関する研究開発活動を活性化し、及びその成果を事業活動において効率的に活用することを促進するため、国が委託した技術に関する研究及び開発又は国が請け負わせたソフトウェアの開発の成果(以下この条において「特定研究開発等成果」という。)に係る特許権その他の政令で定める権利(以下この条において「特許権等」という。)について、次の各号のいずれにも該当する場合には、その特許権等を受託者又は請負者(以下この条において「受託者等」という。)から譲り受けないことができる。
一  特定研究開発等成果が得られた場合には、遅滞なく、国にその旨を報告することを受託者等が約すること。
二  国が公共の利益のために特に必要があるとしてその理由を明らかにして求める場合には、無償で当該特許権等を利用する権利を国に許諾することを受託者等が約すること。
三  当該特許権等を相当期間活用していないと認められ、かつ、当該特許権等を相当期間活用していないことについて正当な理由が認められない場合において、国が当該特許権等の活用を促進するために特に必要があるとしてその理由を明らかにして求めるときは、当該特許権等を利用する権利を第三者に許諾することを受託者等が約すること。
四  当該特許権等の移転又は当該特許権等を利用する権利であって政令で定めるものの設定若しくは移転の承諾をしようとするときは、合併又は分割により移転する場合及び当該特許権等の活用に支障を及ぼすおそれがない場合として政令で定める場合を除き、あらかじめ国の承認を受けることを受託者等が約すること。
2  前項の規定は、国が資金を提供して他の法人に技術に関する研究及び開発を行わせ、かつ、当該法人がその研究及び開発の全部又は一部を委託する場合における当該法人と当該研究及び開発の受託者との関係及び国が資金を提供して他の法人にソフトウェアの開発を行わせ、かつ、当該法人がその開発の全部又は一部を他の者に請け負わせる場合における当該法人と当該開発の請負者との関係に準用する。
3  前項の法人は、同項において準用する第一項第二号又は第三号の許諾を求めようとするときは、国の要請に応じて行うものとする。
産業技術力強化法施行令
産業技術力強化法施行令
(平成十二年四月十九日政令第二百六号)
最終改正:平成二八年一月二六日政令第二一号
(国が譲り受けないことができる権利等)
第十一条  法第十九条第一項 の政令で定める権利は、特許権、特許を受ける権利、実用新案権、実用新案登録を受ける権利、意匠権、意匠登録を受ける権利、著作権、回路配置利用権、回路配置利用権の設定の登録を受ける権利及び育成者権とする。
2  法第十九条第一項第四号 の政令で定める権利は、特許権、実用新案権若しくは意匠権についての専用実施権又は回路配置利用権若しくは育成者権についての専用利用権(次項において「専用実施権等」という。)とする。
3 (省略)
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